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プラスチックごみで作られた巨大クジラ。製作者がクジラに込めた想い

以前、こちらの記事で海に漂流するプラスチックごみについて取り上げましたが、海洋ごみは海の生物だけではなく、人間にも影響を及ぼすと言われるほど深刻な問題になっています。

世界経済フォーラムの報告書(ダボス会議)2016によると、世界では毎年少なくとも800万トンものプラスチックごみが海に流出しているそうです(※800万トンはジャンボジェット機5万機相当)。さらには、2050年までに海洋中に存在するプラスチックの量が魚の量を超過すると予測されています。 ――「人間から海、そしてまた人間へ。マイクロプラスチックが及ぼす悪影響」の記事より

今回は、そんな海のプラスチックごみ問題に着目したあるプロジェクトをご紹介したいと思います。

2人のデザイナーから生まれたクジラ

©Adam Lai and StudioKCA

2018年、ベルギー北西部の都市ブルージュの運河に高さ12mの巨大クジラ「Skyscraper (the Bruges Whale)」が現れました。

中世ヨーロッパの面影が残る美しい街並みの中でダイナミックなブリーチングをしているこのクジラ、実はすべて海を漂っていたプラスチックごみで作られているんです。

©Adam Lai and StudioKCA

手がけたのは、NYブルックリンにある建築デザイン事務所 <StudioKCA> のJason Klimoski氏とLesley Chang氏。

「ブルージュ・トリエンナーレ2018」に出品されたこのクジラは多くの注目を集め、翌年2019年にはオランダのユトレヒトやシンガポールでも展示されました。

©Adam Lai and StudioKCA

材料になっているプラスチックごみは、自然保護団体Hawaii Wildlife Fundと協力し、4ヶ月かけてハワイの海岸やNYの水路などで拾い集められたもの。プラスチックだけでおよそ5トンもの重さになるそうで、「4ヶ月で5トンも集まってしまうなんて…!」と、改めて漂流プラスチックの多さに驚いてしまいました。

クジラをよく見てみると、「魚市場」や「漁協」と漢字の表記もちらほら。一部、気仙沼や石巻と書かれているものも見受けられ、これだけは「ごみ」とひと括りにはしたくない複雑な気持ちになります…。


The Making of Skyscraper 2018_by STUDIOKCA from STUDIOKCA on Vimeo.
※製作過程はこちらからご覧いただけます。

高雄の愛河で飛ぶ新たなクジラ

©Adam Lai and StudioKCA

そして今年2020年には、台湾の高雄で「Whale in Love」と名付けられた新たなクジラが誕生。地元チームと協力しながら4ヶ月の期間をかけて作られたというクジラは、高さ18m、プラスチックごみの重さは15トン、骨組みを入れると60トンもの大作になりました。

©Adam Lai and StudioKCA

台湾の資源回収率はドイツに次ぐ世界第二位。前回は漂流ゴミを拾い集めての製作でしたが、「Whale in Love」は高雄市内で回収されたプラスチックごみを再利用して作られています。

近年における台湾の資源回収の成果を示す形にもなりましたが、私たちはこれだけのプラスチックを使用して生活しているという現実をしっかりと受け止め、それらのプラスチックから起こる問題を考えていかなければいけません。

※高雄での展示期間は3月21日までの予定でしたが、コロナウイルスの影響でまだ愛河に展示されているそうです(撤収時期未定)。

製作者がクジラに込めた想い

私がこのクジラの存在を知ったのは最近のことなので、実際に見に行くことは叶いませんが、「製作への想いだけでも知りたい…!」という気持ちから、少しではありますがJasonさんにお話を伺いました。

©Adam Lai and StudioKCA / 写真中央がJasonさん

――このプロジェクトを始めようと思った理由を教えてください。

海には約1億5000万トンのプラスチックが存在します。そして、毎年約800万トンのプラスチックが追加されます。レスリーと私はこれに注意を引くような作品を作りたかったのです。

――なぜ作品にクジラを選んだのですか?

海には私たちが出したプラスチックごみがたくさんあります。それはクジラの数より多いです。あらゆる生物の中で最大の種であるクジラを私たちの作品として選ぶことは、問題の範囲と規模を示すために適切な形であると感じました。

――実際にプラスチックのクジラを製作されていかがでしたか?

私たちがプラスチックごみを収集して分類しそれをクジラとして形作り始めたとき、海、そしてこの世界にどれだけのプラスチックがあるのかを目の当たりにして衝撃を受けました。

また、ハワイやNYで収拾したプラスチックごみには様々な国のものがありました。これは「各国がいかに海を分け合っているか」を示しています。プラスチックごみを減らす努力を協力して行うべきだと考えます。

――このクジラにどのような想いを込めていますか?

プラスチックを多用する私たち消費者の在り方について、人々に考えてもらうきっかけとなってほしいと思っています。努力の価値があるのは、このクジラを見た人々がプラスチックごみについて話し合ったり、子供たちが話しているのを見ること。そして、そこから更に私たちに何ができるのかを考えていくことです。

――日本での展示計画はありますか?

今現在、別の国での展示予定はありません。しかし、より多くの人がプラスチックごみの問題を学び、刺激を受けて意識を高めることができるよう、私たちは新しい場所でクジラが泳げるアイディアを望んでいます。

ARTで環境問題を伝えるという方法

©Adam Lai and StudioKCA

最近、「伝える」というのは時にとても難しいことだなと感じる機会が増えました。例えそれが正しいことであったとしても、相手を否定するような言葉を選んでしまったり、嫌悪感を生み出してしまったら、誰の心にも響かなくなってしまいます。

今回ご紹介したプラスチックのクジラたちは、まずARTとしてのクオリティーの高さで人々を惹き付け、次にその美しい作品がプラスチックごみで作られているという驚きを与え、更にそこから「なぜプラスチックのクジラ?」と疑問を持ち、見た人が海洋ごみについて考えるきっかけになっていく。誰のことも傷つけず、否定せず、それでいて製作者の伝えたい想いが自然と人々の心に届くよう表現されている、とても素晴らしいプロジェクトだと思いました。

なぜ今私たちがプラスチックへの向き合い方を変える必要があるのか、この記事が少しでも皆さんの「考えるきっかけ」となれば私も嬉しいです。

そして最後に、私の拙い英語のメールにその都度丁寧なお返事をくださったJasonさん、お忙しい中ご協力いただき本当にありがとうございました。日本でクジラが展示される日が来ることを願っています。

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